邦題:ザ バニシング ー消失ー
原題:Spoorloos
公開年:1988年
製作国:オランダ・フランス
監督:ジョルジュ・シュルイツァー
出演:ベルナール・ピエール・ドナデュー、ジーン・ベルヴォーツ、ヨハンナ・テア・ステーゲ、etc
公式サイト:http://thevanishing-movie.com/
スタンリー・キューブリックが3回観て、「最も怖ろしい映画だ」と評したサイコサスペンス。
派手に暴れまわるようなことはなく、深く静かに描かれる狂気が怖ろしい。
その狂気の原動力は好奇心。
「好奇心は猫を殺す」という言葉もあるように、常識の外にあるものを知りたいと望む心がこの映画の結末を呼ぶ。
そんな好奇心の持ち主は、とある失踪事件の犯人とそれを追う者、そして観客自身。
オランダからフランスに旅行に来たレックスとサスキア。
トラブルがありながらも立ち寄ったサービスエリアで、サスキアが突如行方不明に。
そこには不審な動きをするレイモンの視線があった。
3年後もサスキアを探し続けるレックスに、犯人からの手紙が届く。
犯人がレイモンであることは観客としてはすぐわかるのですが
普段はいい父親でありながら異常性を内に秘める。
と書くとありきたりですが、倫理的に間違った方向に、極めて論理的に進んでいく姿勢は独特の怖さがあります。
声を掛けた女性をどうにかするために、
別荘を借りてリフォームの名目で通い詰める。
家族に悲鳴を上げさせて近隣に届かないことを確かめる。
睡眠薬を自分で試して効果時間を確かめる。
旅行者を狙うために外国語を学ぶ。
あまりの努力家。何度も試行錯誤を繰り返すさまは微笑ましいくらい。
声をかけた相手が知人だったり、口実を怪しまれて旦那が出てきたり。
間抜けのようでいて、失敗と偶然を糧に一歩一歩着実に改善していく。
それらの経緯を自ら語る姿もまた異様。
レイモンの狂気にあてられ、あるいは導かれ、レックスもどこかズレていく。
事件発生までの過去と、犯人を追う現在を織り交ぜる構成。
その先へ先へと好奇心を駆り立てます。
目的は何だったのか。
どうやって計画は成功したのか。
何故サスキアなのか。
サスキアは今どうなっているのか。
真相が知りたい。
終盤に向けてレックスと観客の好奇心が融け合っていく。
レックスがその先に踏み込むのはマズい、と感じる。
しかし、真相を我々に見せるために踏み込め、と願う。
引き金に指をかけているのは、レックスかレイモンか、それとも観客か。
そんなシンクロが面白い映画でした。
果たして、剥き出しになった好奇心は猫を殺してしまうのか?